Posted by on 2018年12月27日 in 風の心
平成31年1月号 風の心

道の稽古を8回から10回ほど行って、海外へ旅立つ方々がいる。彼らの多くは、渡航先で大学などへ進学するか、或いはすぐに仕事に就く。したがって、基本的には語学を習得することが一番重要である。しかし、立場上教養深き知識人の方々との触れ合いが多いこともあってか、海外生活に於いて現地の方々と交流する際、自国の文化について知っておかなければなるまいと思い、その手段として茶道や華道も学ぶ。
稽古では、先ず客となってデモンストレイションを見学しながら、お茶の頂き方を習得する。どこでどんな風にお茶を出されても、自然体でリラックスしてその一碗を頂けるように、茶碗の扱いや周りへの声掛けを身に付ける。「お相伴させて頂きます。」「お先に。」「お点前頂戴致します。」というステップを初めて体験するのである。次に、お茶を点てる方法、その技術を体で覚える。帛紗のたたみ方から始まり、実際に各器物の所作を実践し、最終的には抹茶を茶碗に二杓入れ、程よい量のお湯を加えて茶筅を振る。一碗を美味しく点てる事さえできれば、いつでもどこでも、どなたにでも一服差し上げられるという、根本に立ち返る。露地から蹲を使って和室へ入り、席入りをしてお茶を頂くだけではなく、聞香の行い方や茶事の体験もして、最後には御園棚で点前が出来るようになる。

そんな彼らが、時折、異国の地で挑戦した茶のもてなしの結果を、素晴らしい写真と共に、嬉しそうな文章にして送ってくれる。そのほとんどが男性である。
ある方は、大きな文化行事の際、点前をされた。お茶やお菓子は日本から、道具は現地の日本人が持ち寄ったりしながら、風炉で何碗かお点てになったご様子。昨年、柄杓の扱いがとても上手な方だった事を思い出す。
「お茶を点てて、皆に喜ばれて、とても楽しく笑顔になりますね。大宗匠が仰せになっていた、交渉で上手くいかない時に、相手にまずは一服勧めることで場が和む、ということが身に染みてわかります。」

ある方は、ご自宅に武官の奥様方を招いて、お茶や着物の着付け体験などを催された。盆略点前のお盆を現地で調達し、お菓子もご当地のものを使いながら、工夫に工夫を重ねて、かの地の文化との融合を実現した。
「実際、一年以上経っており、帛紗捌き等忘れていましたが、ユウチューブと先生から頂いた本で思い出しつつ練習し、何とか出来ました。御園棚を借りてきて雰囲気を出したものの、柄杓が割れていて、点前もゼロから思い出していましたので、本格的な棚の上で盆略点前をしました。
それ以来、皆様方からティーマスターと呼ばれてしまっております(笑)。とてもマスターではありませんが、少しでもマスターに近づく努力をしないと、と感じたところです。また、本物を見て勉強しなければと、思った次第です。」

何も説明しなくても、わかってくれているのである。感じ取ってくれているのである。こんな風に学んで頂けることに、とてもとても感謝している。

「井の中の蛙 大海を知らず」の続きに、「されど空の深さ(青さ)を知る」という言葉がある。狭い世界でも、突き詰めてやり抜いたからこそ、その世界の深い部分まで理解できる、という意味である。前半のことわざから、とても面白いくだりではないか。彼らは勇敢に大海を泳ぎ、思う存分世界を肌で体感して知り得ておられる上、繊細な感性のもと、茶の湯を突き詰めてその青さをも知る姿勢がある。
形を学んだ先にある広い世界へ、自分から気付いて旅立ってゆくお姿を拝見し、此方も学びを頂き、幸せを感じるこの頃である。

平成30年12月18日  畑中香名子