Posted by on 2023年02月28日 in 風の心
令和5年3月号 風の心

待光庵のホームページの風の心を読んで、思わず連絡してしまいました。
ちょうど昨日初めての桐蔭席での茶事があり、私は末客でした。その待合の掛物がまさに、打ち出の小槌のお軸で、きっと先生が見たものと同じものだと思います。
可愛らしい画賛でお正月らしいなと思っていたのですが、先生の書いていらっしゃるように、この打ち出の小槌を自分に置き換えるととても深い意味があるなと感じました。まさにあと残り一年、自分の中にあるすべてを振り出して頑張りたいと思いました!」

2月1日夜、ホテルに居た私の携帯電話に、突然こんなメッセージが届いた。裏千家学園で学びを深めているお弟子さんからである。学校の備品帳らしきものの写真には「打ち出だせ振り出だせよ・・・」という先月号に記載したあの短歌と、太玄という文字を見ることが出来た。優しい打ち出の小槌の絵、その赤い紐の流れる姿が、時をあの頃に戻しながら・・・
こんな偶然があるのだろうか、そう思わずにはいられなかった。二十七年も前の記憶を、ちょうど私が思い出し文字にしたタイミングで、同じことが起こっている。私が学ばせて頂いたあの軸で、彼女が今、茶事を学んでいる。ホテルの部屋の椅子に座り返事を打ちながら、嬉しさが込み上げていた。同時に、私は今、彼女を指導する立場になっているけれども、こうして共に学ばせて頂いていることを痛感し、感謝の気持ちでいっぱいになった。

さて、私も彼女と同じ学生に戻って、ノートを開いてみよう。

四月十二日 星野先生
厳しかった星野先生の授業は、唐突に北宋から清時代までの染付の変化について始まった。また、床にあった唐銅花入の部位を一つ一つ解説して下さり、上部を薄端と呼ぶことを、私は初めて知った。この日の最後には、次のようにお話されて結ばれた。
点前の順序なんて百分の三。何か問題があった時はその日のうちに解決し、二十四時間を有効に使うこと。それは、見ているときに先へ先へと考えて頭で点前を行うことであり、そのような集中力によって何倍もの人生になるのですよ。予習は点前のできないところ(順序)と歴史や道具の決まり(知識)を以って取り組みなさい。復習は今日の出来事をノートに書き、もう一度本を読むこと。

先生のお言葉は、ノートの随所に出てくる。春、稽古が始まってすぐに、この様な大切なお言葉を賜り、そのことによって自分の毎日の生活、時間割りを組み立てることが出来た。運動選手時代の、厳しい毎日のプログラム、メニューと同じで、この小さな積み重ねによって自分を作り上げていく。

数年前私が淡交に一燈の七事式について拙文を書かせて頂いた折に、卒業後全く交流の無かった星野先生から突然お手紙が届いた。拙文のプロフィールに学園研究科と記載があった為、学園の事務室に問い合わせて下さり、宛名に書かれた旧姓澁谷によってそのお手紙は実家のポストに入った。私もそのお名前だけでは思い出せず、大阪?もしかして星野先生?本当に?とびっくりした。慌てて中を開けると、細かい字でたくさんの事が書かれており、先生が文章に感銘して下さり、長年の疑問が解けたとのお筆を拝読した。時の嬉しさは、何とも言いようがなかった。引き続き頑張って研究を進めて下さいとの励ましも賜った。

27年前、学園でまだ何もわからなかった私に、学び方の初めの一歩を教えて下さった先生から、このようなお手紙を頂く日が来るとは思ってもみなかった。そして今、二十七年前私が学んだ学び舎で、お弟子さんが頑張って学んでいる。それもあの道具で。
茶の湯の縁によって、私たちは繋がっているのだと思う。長い長い糸でしなやかに、時には曲がりくねって、時には絡み合って、繋がっているのだと、そう思っている。

令和5年2月27日 畑中香名子