Posted by on 2025年03月29日 in 風の心
令和7年4月号 風の心

 ベトナムのハノイで支部として10年を迎えた、裏千家109番目の海外協会である、茶道裏千家淡交会ハノイ同好会の発会10周年記念行事に参加した。改めてこのようなご縁を頂いたことに、深く感謝申し上げたい。多くを知り、感じ、考える機会を頂き、視野を広げることができた喜びを感じている。

 出発前は、暑いのか寒いのかよくわからず、衣服選びに困惑していた。主催側でなく客の立場という気楽さはあったものの、久しぶりの海外茶道活動参加に、母のケアも含めて少々の緊張感があった。しかし、同行のお弟子さん達が常にさりげなく先回りのお気遣いをして下さり、主催側のお弟子さん達の細やかなご配慮もあり、皆々様のお陰様で親子共に無事に有意義な時を過ごすことが出来た。

 2011年東日本大震災の義援金として、ベトナムから福島県へ八億円の寄付金が送られていたことを、今回初めて知った。2013年には感謝の意を伝えるために、福島空港から170名の方がチャーター便でベトナム入りを果たし、ハノイで福島フェスティバルが行われた。参加された淡交会郡山支部の方のご縁で、2015年には大宗匠をお迎えして正式にハノイ同好会が発会。2018年には、裏千家より茶室「圓徳庵」が寄贈され、茶室開きを迎えた。このような流れの中での2025年、「感謝と巡り合い」をテーマに、大学、裏千家、日本国大使館、ハノイ同好会などが協力をして、今回の記念行事に至った。

 幕開けは、人文大学での茶道行事である。先ずはお家元御染筆、ご寄贈の額装『清新』が掲げられている、い草まで全てベトナム産材料を使用してベトナムで作られた、三畳の茶室見学でスタート。大学校舎内の小さなスペースを利用して、非常に綿密で無駄のない空間利用をされたこの茶室は、日本の住宅事情にも合う素晴らしいものだった。場所を変えて行われた御園棚での呈茶は、美しく着物を召されたベトナム人の皆様の心温まる一服。学食で頂いた昼食後は、業躰先生による茶道講演会であった。薄茶のデモンストレーションでは、点前を裏千家の水屋方、客をベトナムの大学生が務め、詰め掛けた数百人の聴講学生と共に、畳の歩き方一つにもその真剣さと一生懸命さを感じる、爽やかで意欲に満ちた空間だった。引き続きのご講演も茶道の心に触れ、何もない茶室という箱の中で、人が人を想い合うことを具現化するのが茶道の形とのお話を賜った。

 2日目は、10周年記念茶会が圓徳庵にて行われた。八畳の茶室では大宗匠や御家元の茶杓や茶碗が使われ、主に日本人同好会会員の方々の歴史や想いを知る機会となった。立礼席は、ベトナム人会員の方々が道具組。掛け軸は「松無古今色 竹有上下節」、茶杓は「白雲」、棗は「松喰鶴」の蒔絵であった。世の中の普遍的な性質や価値観を受け入れつつ、白雲の空は世界に同じく広がり、日本とベトナムも(鶴が飛ぶように)繋がっているというコンセプトに、若き希望と躍動感溢れる空気を感じた。

 3日目には記念懇親会が開催され、大宗匠、御家元よりのメッセージを伺った。支部委嘱書授与式、日本国ベトナム駐在大使や両国要人の方々の挨拶、参加した多くの皆様のご紹介やスピーチなど、この記念行事のファイナルを締めくくる和みの時間となった。世界各国にいたベトナム人同好会OB・OGもハノイに集結し、この開催に尽力していた。立ち上げ前から、或いは成長過程に、ハノイの茶道に関わってこられた日本人の方々も、国を超えて集まり協力していた。現在現地で同好会を守る方々と共に、一丸となって行程をこなすお姿は、30年前の日本の茶道、青年部や支部の強い活力を思い出させた。

 終戦後6年目より、ハワイを皮切りに大宗匠の撒かれた種は一粒万倍、世界中で花開いている。これは、教える人、教わる人が日々是好日、どんな日もかけがえのない今として、こつこつ修練を積み重ねて来た結果である。3650日の10年である。ベトナムの方々の探求心と誠実さを見習って、日本にいる我々は今から何を進めてゆくべきか、もう一度考え実行することが焦眉の急であると思いながら、羽田に降り立った。価値深きこの旅に関わった、全ての方々に感謝をしながら・・・

令和7年3月25日 畑中香名子