今年の待光庵研修旅行は、石川県小松空港から入り、山中、金沢、能登と、県内を北上する形で、2泊3日を有意義に過ごした。
1日目の最初は、山中の生地生産協同組合に伺い、大木を裁断して、小さな板からお椀の原型までに仕上げる様子を見学。通常このような初期の作業を見ることは、殆どない。そこからすぐ近くの、生地職人を育てる学校へ移動。四年間かけて、椀や干菓子器など、様々な器の繊細な生地削り、漆塗の制作過程を学ぶ。ロクロの調整を始め、自分が使用する工具も鍛冶屋のように自分で手作りする。日本の高い技術を継承する、素晴らしい職人が育ってゆく。昼食は明月楼で鰻重を。少し紅葉の始まったこうろぎ橋を渡って無限庵へ進む。ここは前田公のご家老所有とあって、金沢の精巧な技を感じる紅珊瑚や螺鈿の蒔絵、江戸中期楽了入の将棋の駒と飛来一閑の碁盤、釘隠し等も素晴らしい建物。現在の持ち主である前畑雅峯、春斉様親子、ご家族様一同でお出迎え頂き、工房ではその制作の様子、技術の歴史、ご苦労を丁寧に教えて下さった。特にご高齢の雅峯様より、直接山中塗のお話を熱く語って頂いたのは、光栄なことであった。作品も頂くことが出来、その後多田桂寛様、須田菁華様の所へ寄り、塗物や九谷焼を買い求め、一路辰口温泉「まつさき」へ。薄暗い到着時、ライトアップされた池に浮かぶ茶室の明かりが、優しく出迎えてくれた。これには一同感激。その後宴会を楽しみ、自己紹介に花が咲いた。
翌朝は朝食の後、茶室で茶会を。軸は十三代前田斉泰公筆「菊酒除不詳」、棗や茶碗は昨日前畑さんから分けて頂いた陶漆や乾漆のものと持参のもの、お茶は当庵からとまつさきさんご用意の二服点、菓子は山中山海堂の龍田姫きんとん(美しく最高のお味)他まつさき製など3種、水も観音様から汲んできた名水、花は早朝有志の方が取ってきて下さった照葉他。即席30分で用意の割には、最高の茶席となった。旅館を後にして、大型バスは金沢市内へ。宮﨑様宅では、寒雉様自ら茶道具の中にある鉄製品の種類や制作の流れをご説明頂き、抹茶を一服。釜、五徳、火箸、蓋置、皆さんが鉄に興味を持って下さると嬉しい、お茶をして下さる方々に支えられているとおっしゃる、その謙虚なお姿が皆を引き付けた。火箸や蓋置を求めた方も多数。お庭の向こうに鋳物の制作場所があり、そこでは代を継ぐ予定の修行中のご子息様が、温かい笑顔でお話下さった。引き続き東茶屋街では、重要文化財のお茶屋「志摩」にて主客の勉強。日常を離れた世界で、もてなす側ともてなされる側が共に芸に興してこそ、茶屋遊びの「粋」が成るとし、客の側にも芸を解する力量が問われ、旦那衆は茶屋通いの為に自ら稽古事をする。芸をたしなみ、芸妓を楽しませる程の懐の広さを持つ、洒脱な心で迎える客に対し、自分を磨き歌舞音曲の他客の心を満たす幅広い教養を持ち、装いやしぐさまで客に我を忘れさせる術を身に着けた芸妓が迎える。ここにも主客一如がある。有名な料亭「山乃尾」で治部煮の昼食後、大樋長左衛門様宅へ。ご当代長左衛門様より、美術工芸についてのお話を伺い、美術館にて歴代の作品を見学。買い物の後に奥様より抹茶を一服頂き、ご長男の現在のご活躍も伺った。重要文化財成巽閣を見学し、諸江屋でたくさんのお菓子を買ってホテルへ。
いよいよ最終日、バスは早朝に能登へ向かった。千里浜渚ドライブウエイは、日本で唯一バスが海岸線の砂浜を走ることが出来る場所、世界では三か所とガイドさんが言う。天候にも左右される為、走れて嬉しく、大変貴重な体験だった。日本三大朝市と呼ばれる、輪島の朝市で新鮮な魚介類を買い求めた後は、輪島漆芸美術館で輪島塗の歴史をじっくり学び、元岡漆器店では目の前で椀の生地に布を張ってゆく作業を拝見。その手元の動き、刷毛から運ばれる漆が布を包み込む様子はお見事。合わせて工房長屋では漆上塗の職人技を始め、現代風塗のアクセサリーなども見て、たくさん買い物ができた。途中日本海の美味しいお刺身定食を頂き、キリコというご神体の神輿を守るご神灯の展示館に立ち寄って、地元の方々の祭りに対する熱き心意気をたっぷり感じた。
こうして怪我や病気もなく無事に帰宅。31名、ご参加の皆様のお陰様で、良い思い出に恵まれる良き旅となった。皆様には、心より御礼を申し上げます。
平成29年11月5日 畑中香名子


