さて、先月号に書かせて頂いた6月5日の建仁寺献茶式参列の次の日、6月6日から見て行こう。
6月6日(火) 朝礼
掛軸 厳谷栽松(がんこくにまつをうう) 『臨済録』序
この言葉は、「厳谷栽松 後人標榜(こうじんのひょうぼう)」と続く禅語である。この日、千坂先生は次のように教えて下さった
この禅語には二つの意味がある。一つは環境の整備、もう一つは後の人の為に。この二つは教育の在り方であると。
臨済禅師が山奥に松を栽えていると、師の黄檗禅師がその理由を尋ねる、「こんな山中の険しい岩谷に松を栽えてどうするのか」。臨済は答える、「一つは寺の風致を整え、二つには後世の人の為の道しるべに」。これが言葉誕生の由来である。
植樹によって環境を整備する、つまり置かれている場所を整え、そこにいる人の心を整える。更には後の人の為に、指標、道標を作っておく。この心持で臨済は松を栽えた。
これが〝教える〟という事である。直接的にこうだと伝えなくとも、そこを上手に整えることで人が自然と良き方へ向いてくれるように、環境や状況を作り上げるのも師の仕事。また、今の大切な学びや文化、我々でいえば茶の湯を、後世へつないでゆく、守ってゆくためには、軸となる指標を示すことも大切。それはあらゆる場面に於ける師自身の在り方であり、姿であろう。私を育てて下さった、今は亡き素晴らしい先生方のお顔が目に浮かぶ。皆様まさに「厳谷栽松 後人標榜」の教えであった。
千坂先生は話しの最後に、雨降りの時期でも雨の中に月と太陽を持てる気持ちでいなさい、足元を見つめなさい、どこまで目標に近付いたのかよく考えて、悔いのないようにとおっしゃった。岩谷に松を栽えて下さっていたのである。
6月7日(水) 近江神宮献茶式の説明会
調身 身を整える
調息 呼吸を整える
調心 心を整える
献茶式参列に当たり、数日前、千坂先生からご説明があった。
朝、朝礼の場に来て畳に座り、床の掛軸の文字を見て心の整理をしなさい。点前をする前にも、この三つの整理をしっかり行いなさい。家元の献茶の時、緊張の中で家元と一体になって調身・調息・調心をして初めて成る。家元の呼吸と見ている者の呼吸が合うように、茶の奥儀である「無賓主」(主客一体)を目指しなさいと、心の持って行き方をご指導頂いた
その後、大徳寺、妙心寺、建仁寺などの法堂でする献茶について、お話が進められた。お茶、お湯、お菓子、お香・・・供える度に参拝しお経も長い。
奠茶(てんちゃ) お茶を捧げる
奠湯(てんとう) お湯を捧げる(薬という意味)
此処から茶の湯という言葉が生まれている・・
こうして6月9日(金)、私たちは近江神宮の献茶式に臨んだのだった。そのお話は次回に書かせて頂こうと思う。
まだまだ深い言葉がたくさんあった。すべてを書くことはできないが、こんな風に先生方から頂いた宝の学びを多くの皆様と共有し、少しでもお役に立てたらと思う。岩谷に松を栽えるまでには到底至らず、岩谷にしがみ付いているだけではあるものの、少しでも前に進みながら・・・
令和5年6月24日 畑中香名子


